永井健一｜赤い雫

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玉田優花子 × 霧とリボン 共同企画展《オペラ座の怪人》出品作品。
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シャンデリアの落下場面をオペラ座の怪人エリックの涙が零れおちる様子と重ねて描きました。

前景の観客席3つに対し、人影を2つにすることで悲劇を描いております。

……永井健一

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文｜高田怜央

一度、霧の都で紙芝居屋に出くわしたことがある。石畳の路上に即席の舞台が立ち上がり、「仮面の独白（Le Monologue du Masque）」という演目が始まった。フランス語は中等学校に上がらないと習わないから、当時の私に話の筋はわからなかったが、ナガイさん、という名前らしい旅の男の声は、呪文のように歌のように湿った空気に絡みついた。

亡霊だろうか、魔物だろうか。それとも悪魔と契約を交わした人間だろうか。その者の真っ白な顎先から涙が滴り落ちた。しかしどういうわけか、その透き通った水晶は、床で砕け散るころには真っ赤に染まっていた。

＊

あの紙芝居の結末が一体どんな具合だったか、大人になった今となっては思い出せない。きっと悲劇の物語だったんだろう、と、覚えているナガイさんの声の調子から推測する。それでも、次々に場面を差し替えていった旅の男のまなざしには、慈しみにも似たような不思議な輝きがあった。

ようやく話が見えてきて、私は仮面を外した。


★作品情報
鉛筆・水彩紙（アルシュ）
作品サイズ｜21.4cm × 14.3cm
額込みサイズ｜37cm × 30.8cm
制作年｜2025年（新作）

★4枚目画像は本展DAY 3紹介全作品。お届けする作品は《赤い雫》のみとなります。
★5枚目画像は本作の着想となった原作の場面（新訳｜玉田優花子）。

★プロフィール
永井健一｜画家・イラストレーター
神戸出身です。小さな頃から絵を描き続け、大阪大学美学科卒業後に作家活動を開始しました。
個展での作品発表を中心に、イラストレーターとしての仕事やアーティストとのコラボレーション、絵画教室『 集集 - tudo tudo - 』主宰など絵にまつわる様々な活動を行っています。現 神戸芸術工科大学非常勤講師。

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