樋上公実子|夜宮
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霧とリボン企画《モーヴ街のクリスマス 2024》出品作品。
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オーロラの夜の白いトナカイと女の子
(2枚の絵を並べると繋がる)
……樋上公実子
*「女の子」を描いた一作「夜想」は別ページにて紹介
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文|高柳カヨ子
聖なる夜、幾万の星が煌めく夜空に、たなびく翠のカーテンが現れる。
オーロラ。暁の女神の名を持つこの神秘的な自然現象は、見る者を別世界に誘う。
ほら、耳を澄ませてごらん。遠くから微かな鈴の音が聞こえてくるだろう。
樋上公実子が描くのは、少女でも女性でもない「女の子」。
それはあどけなさを脱ぎ去っても世知にまみれず、どこか超然とそして飄々と、好きなものを選び取る自由を行使する存在。
樋上の「女の子」は、お砂糖とスパイスと素敵なもの全部でできているわけではない。彼女の「女の子」は、夢と幻想と毅然とした決意とほんの僅かな哀しみでできている。甘いだけでない幸せにちょっとだけ垂らした寂寥感が「女の子」の表情に美しい影を添えるのだ。
霧とリボン初登場となる樋上公実子だが、個展をはじめ数々の企画展や、絵本、小説の装画、チョコレートのパッケージやファッションブランドとのコラボなど、多岐にわたる長年の活動を目にしたことのある人は多いだろう。
樋上の作品に登場する「女の子」は、時に人魚に姿を変え、また時に何食わぬ顔でフルーツパフェにこっそり潜んでいたりする。物憂げな瞳はどこか彼方を見つめているようだが、そこには譲れない一線に対する確固とした意思が宿っている。
ホイップクリームのような白くてフワフワの毛を持つ幻獣たちも印象的だ。絶滅してしまった愛らしい幻獣を描く筆致は、穏やかで優しく、それでいてどこか冷徹でもある。人々が現実にしか目を向けなくなり幻想を失い、絶滅に追いやられた幻獣たち。彼らの姿はもう、樋上と彼女が描く「女の子」にしかとらえることができない。
ローマ神話で、太陽の神アポロン(ヘリオス)を兄に、月の女神セレネを姉に持つ、暁の女神アウロラ(エオス)。2頭の馬に引かれた馬車に乗り、太陽神の前を走ってその薔薇色の指で天空の門を開けると、曙光が差し夜明けが訪れるという。
この女神の名を冠したオーロラは、実際は太陽から放出されたプラズマが、地球の大気圏最上空にある電離圏の原子分子と衝突して発光する現象であるが、古今東西人々はこのオーロラに様々な物語を与えてきた。
フィンランドのサーミ族の伝説では、オーロラを「狐火」と呼び、ファイヤーフォックスが走る時、その尾が雪原に触れて火花が散り夜空に舞い上がるとされた。また古代スカンジナヴィアに住んでいたノース人は、オーロラを戦乙女ワルキューレの甲冑の輝きとみた。
一瞬たりとも動きを止めずその姿を変化させるオーロラ以上に、幻想的という言葉に相応しい存在があるだろうか。
微かな鈴の音が近づくと、いつの間にかそこには真っ白なトナカイが立っている。
トナカイといっても通常の姿ではない。尖った蹄にくるくるの巻き毛、先が丸まったやわらかい蔓を思わせる角には、小さな鈴のようなものが沢山付いていて、動くと涼やかな音色がする。ここにサンタクロースはいない。幻獣のトナカイはたった1頭で「女の子」にプレゼントを届けにきたのだ。
暖かい装いをした「女の子」の髪に結ばれているのは、トナカイの尻尾にあるのと同じ色のリボン。トナカイと「女の子」は頭上にたなびくオーロラと同じ翠色の瞳を見交わす。
それはクリスマスの夜、誰も知らない1人と1頭だけの秘密。
女神アウロラは、人々に知性と創造力の光を与えるという。
この夜、樋上公実子はまたひとつオーロラに物語を書き加えた。
★作品情報
油彩・アルキド樹脂絵具・板
作品サイズ|22.5cm×14.7cm
額込みサイズ|30.5cm×23cm
制作年|2024年(新作)
★プロフィール
樋上公実子|画家
東京生まれ。関西学院大学ドイツ文学科卒業。個展、企画展で作品発表。絵本、書籍装丁画、 パッケージイラストも手がける。代表作に『バンビと小鳥』(ポプラ社)、『人魚の見る夢』(ステュディオ・パラボリカ)、『おとぎ話の忘れ物』(文・小川洋子/集英社・ポプラ文庫)など。
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